温故知新


 第47話 富貴なる者は人を送るに財をもってし,仁人は人を送るに言をもってす.(孔子世家)


 孔子は若くして弟子を持った.弟子の一人を連れて,周の都に住む老子を訪ね礼について学びました.
 帰る段になって,老子は,孔子に向かって次のように言いました.
「金持ちは人を送る際に,餞別として金品を贈り,仁者は人を送る際に,餞別として言葉を贈るという.私は金持ちでないから,仁者のまねごとでもさせてもらおうか」
 仁者とは,仁を備えた人のこと.仁とは,当時の特に儒家にあっては道徳思想の中心観念でありました.従って,ここは金はなくとも仁を備えた人格者という意味です.
 人を送る際に,果たして金品を贈るべきか,言葉を贈るべきか,どちらも贈りにくくなる老子の名言ですが,こう前置きして,彼は,有名な孔子批判を残しました.
 とにかく,老子はその実在さえ疑われるほど謎の人物ですが,その批判は,孔子の一面に対する忌憚のない厳しいものでした.

 博弁広大なれどもその身を危うくする者は,人の悪を暴く者なり.(孔子世家)

 打てば響くように答えが返ってくる.博学多識で弁舌もさわやか,誰でも感心させられてしまう.しかし,なかなか成功しない.そればかりか,しばしば身が危険にさらされる.こういうタイプの人はいないでしょうか.
 孔子の場合は,鋭い批判力によって人の悪を暴くからです.それ自体は決して悪いことではありません.悪を暴くことによって,国とか社会とか,あるいはその他の組織にとって,有益な場合も多いのです.しかし,その状況や相手を見極めてからでなければ,有益である前に,自分が消されてしまうことにもなりかねないからです.
 そのところの配慮が欠けている,と老子は孔子に向かい批判しています.確かに,孔子の一生は,こういう受難者的なところがありましたが,これは,孔子やその他の天才にのみ限られたことではありません.頭が切れながら,それ故に口が禍する人というのは意外に多いものです.
「自己主張を抑えよ」
 と,老子は続けています.じっと身を伏せて慎重に出ることが肝心でしょう.敵の悪を暴けば,必ず敵も報復を考えてくる,と言う意味になります.(98/9/20)


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